「文章修行家さんに40の短文描写お題」 餅ver 『お題に沿って、65文字以内 で 場面を描写せよ』 01. 告白 (幼少足利) 衝撃に立ち尽くす体に 手を伸べ、溢れる涙を 拭おうとすれば、余計 に泣かれた。甘いもの が食べられないなんて 可哀相と弟は切実な声 で泣いた。(65) 02. 嘘 (道誉) 目を白黒させた最高権 力者は、彼の弟を探す 為即座に走り去った。 そんな阿呆らしい事が 有り得ぬと気付き、此 方へ駆け戻るまであと 幾許か。(64) 03. 卒業 (兄上と貞氏パパ) 庭に駆け出して木陰に 飛び込み、喘鳴に似た 嗚咽に胸を鷲掴む。若 と呼ばれる事はもうな いのだと思えば、別離 の影はより鮮明に落ち かかり。(64) 04. 旅(幼少足利) 道を誤ったが、屋敷に 着くまで引く手を離さ ねばいいだけならば、 此の侭歩き続けるのも 悪くない。二人分の腹 の音で、其の案は即棄 却された。(65) 05. 学ぶ(兄上) 一人遠駆けから帰ると 、近習が呆れた様に戯 れも程々にと嘆いた。 笑って行程を反芻して いたら、弟が事も無げ に調練ご苦労様ですと 言った。(64) 06. 電車 (建武期) 不貞腐れた主は卓に突 っ伏して、鎌倉に行き たいと零す。両日中に お帰り頂けるのでしたら御 自由にと答えれば、お 前が何とかしろと無理 難題。(65) 07. ペット (黒詮ちゃん) 美しい毛並みの猫がい た。抱き上げれば、人 懐こく鳴いた。愛らし い仕草に頬を緩め、嗚 この獣は気高さを失っ たのだと嗤って其れ を棄てた。(64) 08. 癖 (師さん) 「尊氏さま…」 「何ださっさと喰え」 「お手ずからこの様な事せずとも」 「腕を上げ直義に馳走するのだ」 「…」 「どうだ」 「特徴的なお味で」(65) 09. おとな(詮ちゃんと蛇女) 母は澄ました顔で父の 帰りを迎えた。他人行 儀な態度に私は首を傾 げたが、母の顎に手を 掛けた父は、物言わぬ 唇に口付けあやす様に 笑んだ。(64) 10. 食事 (結構危険ネタ/兄弟) 滴る脂に口元を拭う 。向かい合った喉が肉 を嚥下する動きを凝っ と見た。 「美味いか」 「美味しいです」 啄む 仕草は直に止み後は咀 嚼するのみ。(65) 11. 本(兄貴とたそ) 日がな室で書を紐解く 彼に、飽きぬなと言え ば兄上も意外とお好き でと的外れた返答。ど うせ日がな横顔ばかり 眺めていたのだろうと 嘆息した。(65) 12. 夢 知人でも況してや兄弟で も無いお前を見た、と 呟いた。深夜の来訪者 に直義は、其れでも共 にあったでしょう、と静 かにその背へ手を伸ば した。(65) 13. 女と女 (遊ばれる兄上) 「紗和殿、すまぬがこ れは」 「直義様と揃え ましたの」 「紗和殿が 御召しになられよ」 「 私には大きすぎますも の」 「…俺には恥ずかし すぎる」(65) 14. 手紙 (黒詮ちゃんと冬さま) 上等な和紙に、無駄に 美しい文体で直冬様へ と綴られていた。日記 より質の悪い報告書め いた其れを、指先で摘 んで拾われぬ様縁側か ら捨てた。(65) 15. 信仰 (Gと兄上) 控える青年 の方へ向き直る。お前 の拠所はと問い、自分 以外のいらえがあれば その時は。抜いた扇を くるりと手で弄び、ゆ るりと口を開いた。(64) 16. 遊び (幼少足利) 小さな玻璃の欠片を、 指先で摘み上げあか、 あおと指差しながら弟 は並べてゆく。音無 き室に擦り合う音は響 き、楽の音の様だと小 さく笑った。(65) 17. 初体験(兄上と兄貴) 視界がぶれ、思わず卓 の上に手をついた。其 れを笑おうとした男も 仰け反った拍子に姿勢 を崩した。転がる酒樽 の数に、侍従は言葉を 失った。(64) 18. 仕事 (兄上とキャタお仕事時間) 一頻剣を合わせた後、 疲れ果てて座り込んだ 。井戸端で水を被りな がら二人で今日夜飲む 酒の銘柄を論じていた ら、本気の声で師直が 怒鳴った。(65) 19. 化粧 (兄上) 刀を振り抜けば齎され る戦果。手の甲で擦っ た頬はねとりと濡れた 。隠匿が為顔を洗い流す 真水と、どちらが虚飾に 近いかと詮無い思索に 溺れ。(65) 20. 怒り (死後期黒詮ちゃん) 憐れむ視線は其れでも 苛烈で鋭く、密かに絶望した 。「軍を」言に反し、 兄を憎むことをやめた 父の痩せた躯を床へ叩 きつけ、荒い息を吐い た。(65) 21. 神秘(兄上と冬様) ただ静かに見合う現状 に耐えかね、少しばか り項垂れる。暫し逡 巡して何故こんな羽目 になったか、お互いの 最大の疑問を漸く口に 上らせた。(64) 22. 噂 (やや危険ネタ) 哀帝に倣うつもりはな いが、と尊氏は言った 。お前の為なら袖位いく らでも切り落とそうに 。そう続ければ、直義 はちろりと口の端を閃 かせた。(65) 23. 彼と彼女 (あやめと哀れ詮つん) 目の前の女童は澄みきった 声で自分の名を紡いだ 。赤らむ顔を隠す必要 もなく、父の甘い声で その女童の正体を知っ た私はすぐさま逃げだ した。(65) 24. 悲しみ 震える声で笑うので、 腕に掻き抱く。泣くな 、と言えば直義は無言 で指をやった――俺の、 頬に。瞬きすれば冷た さがその優しい指を濡 らした。(65) 25. 生 (兄上と師さん) 自傷はお止し下さい と諌言した。巾を撫で 主はそんな下らぬもの では無いと返す。切り 離す痛みに準え、其れ に耐える様を残酷だと 言えたなら。(65) 26. 死 (霞様) この手で切り裂いた喉 笛を彼に捧ぐ。産み落 とした血脈を与える。 彼は私に、またとなき 綾で織り成されたここ ろを放り出す様に贈っ てくれた。(65) 27. 芝居 (やや危険ネタ) 剣呑な光を帯びる主の 視線から逃げて跪く。 頭を垂れていれば顎を 足先で掬われ、壮絶な 笑顔。美しく唾棄し尊 氏は軽蔑を吐き出す。 「下手糞」(65) 28. 体 (兄貴とアホ兄上) 「腕が動かない」 自分 を嫌う筈の彼が殊勝な 訴えをするので驚いて 腰を下ろした。それが眠る弟 に腕を貸した所為だと 覚った瞬間、席を立っ た。(65) 29. 感謝(兄貴と黒詮ちゃん) 父は少しばかり決まり 悪げに視線を背けた 。叔父は歓び顔を綻ば せ、父の傍らから立ち 上がった。空いた隙間 に、思わず男へ含蓄無 く笑み掛け。(65) 30. イベント (12月29日) 年越しの祝いですかと 首を傾げるので、完璧 に整えられた膳の上座 に引き摺っていった。 これから数ヶ月同い年 だといえば、花の如く に笑んだ。(65) 31. やわらかさ (死後期兄上) 舌を這わせ傷口を抉 る。己が躯を刮ぐ感触 は酷く曖昧で、生温く 軽薄だった。掌で包ま れる感触を夢想し、失 われた代替を求める愚 行に飽いた。(65) 32. 痛み (兄貴とたそ) 酷く狼狽している彼を 宥め訳を聞きだす。 横で聞いていた男が主 の名前を呼び走り去っ た。この年で罹る麻疹 の厳しさを半泣きの彼 には言えず。(65) 33. 好き (黒詮ちゃんと冬様) 肘を付く物憂げな仕草 が、似ていると思う。 見下す視線は、綺麗だ と思う。投影と称讃で 凝り固まった憧憬を、 口に出す前に彼には拒絶 された。(65) 34. 今昔(ガキ大将兄貴・箱入兄上) 弟を探してる、と言え ばそうかと流された。 見なかったか、と問え ば見たと相手は頷く。 何処で、と訊けば先刻 家で、とさらりと彼は 嘯いた。(64) 35. 渇き (子供師さん) 未だ十にもならぬこの 童が己の仕える主。つ い不躾に見詰めれば童 は屹度眉を寄せ、虚け めと吐き捨てた。竦む 程の矜持に、小さく喉 が鳴った。(65) 36. 浪漫 (叔父上と兄貴) 「詰る所は愉しいでな 。童の戯れる姿は何と もいいものだし。」 そ う宣った挙句鎌倉へ旅 立とうとする父を、母 が拳で止めたのを一度 だけ見た。(65) 37. 季節 (兄上と道誉) この頃都に流行るもの 、口ずさむ様に挙げ連 ねてみせる男に苦笑し て手を振る。お迷いに なるな、と珍しく強い 語調に思わず目蓋を、 閉じて。(64) 38. 別れ(足利母) 美しい人だ、と思 う。老いて尚凛々しく 正しかった。弔いの儀 の最中、斯うして遺さ れる側と遺す側どちら が痛ましいか、答え を欲したのだが。(65) 39. 欲 (兄貴と兄上) 「お前は強欲だ。欲さ ない癖に手にしたがる 」 「確かに、だが其れは貴方もだ」 「俺が欲しいのは」 一 つだけと続くはずの言 葉を、喉奥に沈め。(65) 40. 贈り物 包みを開けば上等な筆 が一振り。お前が常に 側に置く物を選んだと 尊氏は笑った。それな ら私は、と言えばもう 貰ったと伸びた手が肩 を抱いた。(65) 戻 |