「文章修行家さんに40の短文描写お題」


梅ver
『お題に沿って、65文字以内 で 場面を描写せよ』


01. 告白(兄貴と兄上)
弟が好きかと問われ、それなりだと答えた。あれは義理ですと付け足せば、彼は表情を凍 らせる。罪悪感など過らせるのは、彼の弟と同じ態度。


02. 嘘 (足利兄弟(ちと観応入る前))
直義、少し痩せたか?と兄上は言う。首を横に振って、いいえと笑った。 削げた肩でも言葉でもない。寄り掛かる重みで気付いてほしい。


03.卒業(兄貴ガキ大将)
嗚咽を漏らしている仲間達を、肩を叩いてねぎらう。おめでとうございます、と低頭した 一人に礼を言った。明日は元服の儀。もう共におれぬ。


04. 旅



05. 学ぶ(幼少キャタと兄貴)
「いいか、喧嘩というのは…」
指を鳴らして、兄貴が口を開いた。
「黙らせれば勝ちだ」
「ああ、了解」
地に伏す一人を、足先で突つきながら。


06. 電車(足利兄弟)
「もう着いたのか」
「早かったですね」
「…もっと遠くに行こう」
「兄上の隣にいられるのなら」


07. ペット(上杉兄弟とたそ)
「食べてみますか?」
差し出された汁粉の椀に、くんくんと鼻を近付ける。主人が出来てよかったなとからかえ ば、素直に照れる馬鹿な弟。


08.癖(冬様とたそ)
後ろめたいときには俯く貴方。視線を辿り、引き寄せるたがる私。
…直冬には何でもあげる。
嗚呼どうしてこうも諍気を駆り立てるものばかり。


09. おとな(たそとキャタ)
童が桃の木を見上げていた。少し行ってきます、と重能が立ち止まる。
「兄ちゃん有難う」と華やぐ声。彼の肩の上はさぞ眺めが良いだろうに。


10.食事(上杉兄弟)
珍しく遅れた俺の夕膳は、目を灼くぐらいの不自然な橙色。
「お前のは人参だらけだな」
「……ごめん。」
「…てめぇら二人しておしつけたな」


11. 本(足利兄弟)
読み方がわからぬと言うので、朗読した。意味がわからぬと言うので、解釈した。お役に 立てましたかと問えば、膝の上からは安らかな寝息。


12. 夢



13. 女と女



14. 手紙(兄貴)
「直義様からの御文に、ご返事をなさいませんと」
「十日前に書かなかったか」
「…十日おきに届くのでしょう」
…怠慢の免罪には為るものの。


15.信仰 (キャタと師さん)
「惰性じゃ意味がねぇんだよ」
ふと擦れ違った刹那に、師直の襟首を掴む。お前は最初から間違っていた、とめり込ませ た膝で教えてやった。


16.遊び(冬さまとあきちん)
「玩具ならもっと呻いて」
ねぇ、と名前を呼べば、小さな指先が土を引っ掻いた。お願いだからと囁いて、踏み付け る足元へ極上の微笑み。


17.初体験(兄貴とたそ)
つまらぬ割に面倒なものなのだな、と室に入った途端憲顕は言った。ひどく得意気に差し 出された薄い茶に、湯気も味もある筈はなく。


18. 仕事(兄貴と冬さま)
端をくわえた紐を操った青年は、見るも鮮やかに襷を掛ける。
「精が出るな」
「これから拭き掃除です」
美丈夫にはこれもありかと感嘆の溜息。


19. 化粧(たそファミリー)
手を繋いだ娘の唇が、いつもよりほんのり紅い。
「だって尊氏様に、お会いしますでしょう?」
そう言った妻は綺麗に笑った。


20. 怒り(足利兄弟)
刃先を己に向ける姿を見る度、私は慍色に唇を噛み締める。破れたそこから血が一筋垂れ ると、貴方は短刀を投げ捨て、すまないと言った。


21. 神秘(若造とたそ(観応期))
彩りのない室に色を与えてやりたくて、花を手土産にした。
「枯れるのを見たくない」
黒衣のまま寝転がっていた直義は、両手で顔を覆った。


22.噂(どーよと冬さま)
歩んでくる青年は確かに美しかった。
「鵺、じゃなくて佐々木殿」
不敵な笑みもさることながら。
「義父上を知らない?」
胤は真だと忍び笑い。


23.彼と彼女(能憲とあやめ)
お友達だよ、と父に言われて、姫様はこくりと頷いた。
「ほら能憲、ご挨拶だ」
真っ赤に 染まった小さな耳を、素通りしているらしい俺の声。


24. 悲しみ



25. 生(仁科と冬さま)
脇腹を深く射ぬかれた傷に、手当てをと言えば罵倒された。
「見ろ。これで膿と血が流れ出る」
疎まれ蔑ずまれ這い進む彼の、至上の気高さ


26.死(師さんとキャタ)
長めに誂えたらしい業物が、刄を惜しむのは不似合いだとしても。
殺したのですか?
つまんねぇこと聞くよな、お前。
もう最期まで噛み合わぬ。


27. 芝居(九州小弐さまと冬様)
「宴は如何でしたか、」
「楽しめました。皆が良い方ばかりなので」
塗り潰すのは、流した視線の艶やかさ。…もう年若い衆では逆らえぬ。


28.体(たそ鎌倉へ出発前)
苦しいまでに強く、縋り付いた私を抱き締めてくれる。
「…ほんの少しだけお別れです」
暖かいこの腕に、それ以外の意義を許したくなくて。


29. 感謝(たそと冬様)
幼い彼が私の看病に一生懸命なのを見て、傍にいてくれて有難うと言った。一瞬身を震わ せた彼は、傍にいさせてくれて有難うと泣き出した。


30.イベント(上杉家)
皆が揃って嬉しいですわ、と新年の祝いで母が笑った。そういえばそうだったと気付き合 う一同が、確かめる間の抜けた一体感。


31. やわらかさ(冬様と黒あきちん)
そっと撫でられた感触に、義父上を思った。目を開けば、ごめんなさいと悪怯れぬあの 童。瞬に突き飛ばして、虫酸が走ると吐き捨てた。


32. 痛み(キャタ)
泣き喚いても許さない。止まる迄やめない。殴り倒すことに喜びなんてないのに 、拳を強く握る程、どうして指の皮からは俺の血が滴り落ちる。


33. 好き



34. 今昔(いまむかし)(たそとキャタ、師さん暗殺計画前)
「何時から彼が憎かったのか解らない」
「覚えないくらい前なだけですよ」
降りた沈黙を鼻で笑った重能は、じゃあ殺しましょうかと訊うた。


35. 渇き(たそ死後冬さま)
指頭の爪の横を、血がなぞっている。ささくれた皮を食い千切って、溢れ出た鉄の味を舐 め尽くした。満たされずにただ、乾涸びていくだけ。


36. 浪漫



37. 季節(たそ)
早まる日暮れが告げている。風が鳴らすその音も、不似合いだと気付いている。背伸びし た彼が吊したあの風鈴に、もう誰の手も届く筈がなく。


38. 別れ(たそ)
例えば自分勝手に捧げる命の雫をもう受け取ってもらえなくても、乾き上って雨粒になり 降り掠める時に思い出してもらえるならそれだけで


39. 欲



40.贈り物 (キャタと兄貴)
「俺のが偉くなってやる」
「ああこの兄に楽をさせろ」
どうせ口に合わなかっただけだろ?腐る程上等な酒樽を、出世祝いなどと戯けやがって。